早く帰って来いよ、長太郎。
お前いないとつまんねぇよ…









忍足と岳人が前日突然言い出し、俺はヒマだったのでOKした。
ジローも誘ったらしいが連絡がつかなかった。多分寝てて気が付かなかったんだろう。
意外だったのが跡部だ。絶対来ないと思っていたら、
「人込みで貧乏くさく見るのは俺様の性に合わない」
とか言って、観覧席を強引に取っちまったらしい。
ああいうのは、ずいぶん前から予約しないと確保できないはず…
きっと金にものを言わせたに違いない。
俺たちに場所を取られたヤツのことを思うとちょっと良心が痛むが、こんなチャンスはめったにないだろう、
と岳人も忍足も大喜びしているので、俺も黙ってついていくことにした。

まだ明るいうちに集合し、俺たちは河原へ向かって歩き出した。
すでに相当の数の人出で、跡部は不機嫌全開のツラでブツブツ文句を垂れ流す。
「ジブン、荷物何も持ってへんやん。ちょっとは我慢せぇ」
跡部は手ぶらだが、俺たち3人は跡部の家が用意したというピクニックバスケットや
飲み物の瓶を集合場所で渡され、荷物持ちをさせられていたのだ。
「何で俺様がそんな重いもん持たなきゃならねぇんだ、なあ、樺地」
「樺地はいてへんで」
忍足がすかさずツッコミを入れると、跡部は舌打ちしてさっさと先に行ってしまった。
「ホンマにわがままやなぁ」
「ああ、子供かっての」
「樺地いねぇと何もできないんだぜ、きっと」
俺も岳人も忍足に賛成した。

「樺地もいねーけど、鳳もいないんだよな?」
突然の岳人の問いかけに、俺は内心しどろもどろになりながら答えた。
「お、おお。」
「寂しいんやろー」
ニヤニヤ笑う忍足を睨みつけ、
「そんなんじゃねぇ。黙って歩けよ。跡部においていかれたら場所わかんねぇだろ」
早口で答えて足を速めて追いかけた。

岳人の言うとおり、今日は長太郎も樺地もついでにキノコ、じゃなくて日吉もいない。
2年生は一昨日から3泊の予定で林間学校に出かけているのだ。
俺も去年行ったから知っているが、携帯の電波も入らない僻地なので長太郎からメールも電話もない。
実のところ、付き合うことになって以来一日だってそんな日はなかった。
だから寂しいのか、と聞かれるそうではなく、どうも調子が狂う、というのが正直なところだ…

いつの間にか日常生活に占めるあいつの割合が高くなってしまっている。

観覧席に陣取ってぎゃーぎゃーと騒ぎながら、食い物をつついているうちに、
辺りは暗くなり、ドーン、と腹に響く音とともに花火が始まった。
高い金を払っている(に違いない)だけあって、悠々と見られる。花火も正面に上がるし最高に贅沢だ。

興奮していきなりムーンサルトをかます岳人を、周りに迷惑だからと俺と忍足が必死で止めているのに
跡部は一人優雅に花火を眺めている。
「俺様のために上がってるみてぇだな、かば…」
今度は樺地、と言いかけて途中で気が付いて止めた。ばつが悪そうにそっぽを向く。

「ジブン、樺地おらんでホンマに寂しいんやなぁ。」
「うるせぇ」
「景ちゃん、ひどいなあ。俺らもおるのに…傷つくわ」
「景ちゃんだぁ?気色悪ぃ呼び方すんな、このメガネ」
岳人に加えて跡部と忍足まで騒ぎ出して周りから白い目を向けられたので、俺は少し離れて
(離れてもどうせ仲間だと思われているだろうが…)花火を見ることに専念した。


『夜空に咲く大輪の花みたいですね』

ふと、長太郎の言葉が耳によみがえる。
まだ、夏休みが始まったばかりの頃、近所の今回とは比べ物にならないくらい小規模な花火大会を
見に行ったことを思い出していた。二人で河原の土手に座ってただ見ていただけだったが。
そういえば、あいつのクサイ台詞に大笑いしたら、
「情緒が足りませんよ、宍戸さん」
と、にっこり笑われて、返す言葉もなかった。

花火の数も種類も今日のほうがずっと格上のはずだし、観覧席なんて場所で見ているのに、
前のほうが綺麗だったような気がする。
なぜか今日は、この前よりも色褪せて見える…


ああ、そうか。
俺は唐突に気がついてしまった。
今日もそれなりに楽しくやってるけど、アイツがいない。
それだけのことでこんなにも…

気が付いてみれば、単純な図式。でもなんか悔しい。
いい場所も食事も、ド派手な花火も、長太郎がいないだけで感動が薄れてしまうなんて…
(まるで俺がアイツのこと大好きで、いないと一日だって過せないみたいじゃねぇか)
自分で自分の考えに動揺していたら、ポケットの中で携帯が振動した。
メールの送り主は長太郎だった。林間学校の宿舎は電波が入らないはずだったが。
あまりのタイミングの良さにちょっとムカっとしながら中身を見る。




「バーカ」
心の中で言ったつもりが口に出てしまった。きっと俺は今口元が緩んでいるだろう…
「鳳、マメやね。『早く帰って宍戸さんに会いたいです』やて〜。ラブラブやん」
いつの間にか忍足が後ろから覗いていたらしい。俺は焦って携帯を閉じた。
「あそこって、去年電波入らなかったよなあ」
「ああ。あんな屈辱的で非文明的な生活は俺様には向いてねぇ」
岳人と跡部が心底嫌そうに言う。
「根性で電波入る場所見つけて、メール飛ばしたんやで。愛されとるなぁ、宍戸」
「うるせぇ、忍足。てめぇちっとは黙って花火見てやがれ」
いちいちうっとおしい忍足の頭を殴って黙らせると、残っていたコップの中身を一気にあおった。
「跡部、メールって気合で飛ばせるのか?」
「あぁん?鳳のやつ妙な電波でも出してるんだろ」
跡部が人の悪い笑みを浮かべて俺の方見ている。俺は気が付かないで花火を見ている振りをした。
これ以上ヤツラのオモチャにされたらたまらねぇ。

反応を示さない俺に飽きたらしい跡部と岳人は、忍足も交えて行きかう女の評価を始めていた。
浴衣が似合う似合わないとか、うなじがどうとか、脚が綺麗だとか…コイツらホント、バカだぜ。
注意が逸れたのをいいことに、俺はこっそりメールの返信をした。




最後の一文を消そうか迷っていたら、岳人が目ざとく見つけて
「あー、宍戸、鳳にメールしてるんだろ。色ボケしやがって」
と大声を出したせいで、俺はうっかり送信ボタンを押してしまった。
ちくしょう…


またなんだかんだと絡んでくる3人のやかましい声と花火の音を聞きながら、
俺は、送ってしまったメールのことを考えた。
ちょっと後悔しないでもないが、もしかしたら電波が届かないかもしれないし。

アイツが帰ってきたら「お前がいなくてつまらなかった」と言ってやろうと思っているところだしな。
長太郎の反応を想像すると、怖い気がしないでもないが、たまにはまあいいだろう。


明日が楽しみだ。






言い訳のみたいなあとがき
宍戸さんが乙女になってしまいました。なぜ…
景吾、こんな人じゃないと思っているんですが。反省中。
林間学校は…またもや捏造。是非2年生3人でカレーとか作っててほしい(笑)


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